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のんのんびよりは何が凄いのか

のんのんびよりの何が凄いか。一言で言えば、リアリティと丁寧さである。

 

まず一話が始まってビックリするのが、一切キャラクターを出さず、ひたすら田舎の風景を、しかもスローテンポで映し続けるという、どこのポストロックバンドだみたいな挑戦的なモノが流れてくること。恐らくあれは物語におけるイントロを示していて、つまり「スローテンポの田舎をテーマにしたアニメですよ」ということを最初にちゃんと説明してくれてるのだ。僕はあそこを見た途端、これはなんて丁寧なアニメなんだろうと感動し、それからの視聴を決めた。悪い言い方をすれば「ふるいにかけた」と言っても良いだろう。あそこでいらいらしてしまう人は、恐らくその後の展開にはついていけないだろうし。

 

もう一つ丁寧さを感じたところ、それは宮内れんげ(アダ名はれんちょん)と呼ばれる女子小学生キャラが、夏休み、たまたま出会った女の子と出会い、別れる話でのことである。

出会った女の子、ほのかという名前なのだが、彼女は親の実家であるこの田舎に一時的に帰ってきていて、そこでたまたまれんちょんと出会い、徐々に仲を深めていく。しかしある時、父親に急な仕事が入ってしまい、さよならも言えずに田舎から引き上げることになってしまう。

それを知ったれんちょんが泣くまでの演出が素晴らしかった。まず、ショックをうけたれんちょんは呆然とする。そこから徐々に現実を受け入れ、受け入れるのでBGMが消える。そして現実世界の音=セミの鳴き声が徐々に聞こえてきて、その現実感が自らにまで上ってきた時、ついに涙がこみ上げてくる。この流れはのんのんびより史上トップクラスと言っていいと思う。わんわん泣くんじゃなく、ぽろぽろ(じわじわ?)泣くのも良かった。れんちょんは実年齢の割に精神年齢が高いキャラなので、ちゃんとそれを反映しているのだと思う。

その後の、れんちょんが泣きながらとぼとぼ自宅に帰っていくシーンもよかった。そこでは、彼女がほのかちゃんとのそれまでを振り返っている比喩として、新→旧の順で、それまでほのかちゃんと遊んだ場所を流していき、最後にほのかと初めて会った橋が出てきたところで、れんちょんが橋で立ち止まっている現在に重なっていくという、非常に丁寧な流れがあり、これもまた素晴らしいと思った。

 

細かいところを書くと、田舎あるあるというか、日本の家庭あるある的なものが含まれているのがリアリティを感じさせる。しかもさらっと差し込んでくるのが憎い。

中学二年生の越谷夏海というキャラは、学校の成績もあまり良くなく、なおかつ夏休みに入っても一つも宿題をやっていない。当然母親に呼び出され怒られるのだが、その母親の怒り方が良い。初め母親は宿題のみについて話しているのだけれど、それがいつの間にか他の、これまでの夏海の失敗についてまで怒り始める。話があっちこっちに飛ぶのが、なんとも母親にありがちなのだ。

夏海の姉である小鞠がお化けを怖がって、その夜夏海の布団に潜り込むというくだりでも、

小鞠「電気、夕方にして!」

夏海「夕方?」

小鞠「豆球のこと!」

夏海「あー・・・。明るいの嫌いなんだけどなあ」*1

というこの自然な会話や、とりわけ夕方ってフレーズ、僕は使ったことないけれど、別に使っていてもおかしくはないような言葉のチョイスがなんとも素晴らしい。

割と新し目の回、八話でもそういうキュンとくるポイントが有った。この回では、駄菓子屋の店主である楓が、駄菓子屋にやってきたれんちょんの相手をしていた。そうしている内にいつの間にか夜も遅くなってしまったので、楓がバイクでれんちょんを自宅まで送り届ける。そしてその御礼として、れんちょんが楓にその日の夕飯であったカレーを渡す。この時タッパーに入ったカレーが出てくるのが、僕にはかなりグッと来てしまった。タッパーにカレー! あるあるーって感じなのだ。

あと先ほどのれんちょんとほのかの話に戻るのだけど、れんちょんがほのかの家に遊びに行く時に、田舎らしく草むらを走って行くシーンが有る。田舎が故に舗装されていないので、勿論段差というか、高低差みたいなものがある。そこでれんちょんは草むらを通るときに、脇にあるちょっと出っ張ったところに登ってから、ジャンプして降りるという無駄なことをやるのだけど、ここらへんも非常にリアルだと思う。

加えて特にそういうあるあるネタとしてグッと来たのが、都会から来た女の子、蛍というキャラが越谷家にご飯をごちそうになる話でのシーンだ。蛍が味噌汁にトマトが入っていることに驚き、だいじょぶだいじょぶおいしいよと小鞠に薦められるがままに飲んでみて「酸っぱい」ってなるのとか、そういう田舎初体験の都会人、的なところも良いは良い。のだけれど、特に僕の中ですげーキュンと来たのが、小鞠が自分の飲み物を注ぐ時に、湯呑みに牛乳を入れていたところ。湯呑みに牛乳! 湯呑みに牛乳だぞ! と。普通、湯呑みと言ったらお茶を飲むための使うものなのだけど、しかしそれはあくまで一応そういう決まりになっているからそうなっているだけのことで、平気で他の飲み物を入れるなんてことも全然あり得る。

こういったように、あるある的な言動やギミックを、細かい部分までこだわって描いてくれて、それに加えてちゃんとギャグアニメ、萌えアニメとしても楽しめるように作られているのが、とっても素晴らしいと思う。

今まで気付いたことがなかったリアリティのあるもの、それを日常系萌えアニメというファンタジーの極地みたいなジャンルに放り込んできたことが、僕にとってはかなりの衝撃だった。

確かに現実逃避できて癒やされるんだけど、でもリアリティがあって共感もできるというのは、今まで感じたことがない。不思議な感じがした。これはけいおんARIAには感じられなかったものだ。恐らくというか確実と言ってもいいが、放課後ティータイムのメンバーが湯呑みに牛乳入れて飲むことなんていっっっっっっしょうないだろう。憂が緑茶を入れて唯に出すことはあるだろうが。

*1:会話内容は正確ではありません。